最高裁判所第一小法廷 昭和31年(あ)3437号 判決 1958年3月13日
主文
本件上告を棄却する。
理由
被告人の上告趣意について。
しかし、関税法一一八条において、犯罪に係る貨物を没収し、又は、これを没収することができない場合にその没収することができないものの犯罪が行われた時の価格に相当する金額を犯人から追徴する趣旨は、所論のごとく単に犯人の手に不正の利益を留めずこれを剥奪せんとするに過ぎないのではなく、むしろ、国家が関税法規に違反して輸入した貨物又はこれに代るべき価格が犯人の手に存在することを禁止し、もって、密輸入の取締を厳に励行せんとするに出たものと解すべく、共犯者ある場合において、この趣旨を貫徹しようとするには追徴すべき価格に共同連帯の責任において納付せしむべきものと解するを相当とする(判例集一一巻一号四〇五頁以下当法廷判決参照)。従って、本件のように共犯者と認められる香港在住の中国人某又は神戸市内における中国人某の所有に属する本件関税法違反に係る時計が没収できない以上被告人はその価格の追徴を免れないものといわなければならない。そして、国家がかかる取締の必要上同条二項の追徴規定を設けたのは、公共の福祉を維持するため当然であって、同条項が憲法二九条に違反するものでないことは、すでに、当裁判所大法廷判決(昭和二六年(あ)一八九七号同三二年一一月二七日宣告)の趣旨に徴し明らかである。それ故、所論は採るを得ない。
よって、刑訴四〇八条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 斎藤悠輔 裁判官 入江俊郎 裁判官 下飯坂潤夫)